第2章 第6節 仲間への誘い

ルストでの初めての依頼こそ散々だったものの、その後のノーヤは驚くほど堅実に成長していた。洞窟での出来事を反省したのか、彼女は簡単な雑用からはじめ、次第に地図作成、素材集め、届け物といった軽い依頼へと領域を広げていった。

ヴェニソン家で培われた礼儀作法や言葉遣い、そして幅広い教養。これらは思わぬかたちで“冒険者としての武器”になっていった。

「おい、あの子さ……意外と話し聞いてくれるぞ」 「商談みたいにまとめてくれるから助かるよな」 「情報整理が早いんだよ……冒険者より事務官のほうが向いてんじゃねぇの?」

依頼先で世間話を交わせば、相手は自然と心を開き、地域の事情やちょっとした噂を教えてくれる。ノーヤ自身は気づいていなかったが、その聞き取りの巧さと整理の速さは、立派な“情報屋”の素質だった。

数週間が過ぎる頃には、ナイフ庵の掲示板近くで、こっそり相談を持ちかけられるほどになっていた。

「ノーヤちゃん、この前の件、また頼めるかい?」 「助かったよ。報酬はここに置いとくよ」

気づけば、ノーヤは街でちょっとした“頼れる冒険者”として認知されていた。


そんなある日のこと。

「……なぁ、お前聞いたか?」 「“猫のルズーネス”の噂だろ?」 「そうそう。森に妙に強い魔法使いがいるって話だ」

ナイフ庵の端の席から、冒険者たちのひそひそ声が聞こえた。ノーヤは思わず耳をそばだてる。

(猫のルズーネス……強い魔法使い……もしかしてあの人かもしれない。まるで、禁書の冒険譚みたいだ。突然現れた謎の魔法使いに助けられて、名前も聞けないまま別れて……もしまた会えたら、それってもう“冒険の始まり”じゃん)

洞窟で出会った青年の姿が脳裏によみがえる。静かで不思議な緑の瞳。眠たげなのに底が読めない雰囲気。一瞬で二人組を退けた魔法の風。

胸がどくんと高鳴った。


翌日。依頼を一つ済ませたノーヤは、街外れの森へ向かった。風が葉を揺らす音が、緊張を少しずつほどいていく。歩けば歩くほど、あの洞窟での後ろ姿が鮮やかに甦る。

(もう一度会えたら……ちゃんとお礼も言いたいし、それに……)

胸の奥で、小さな火が灯る。

そう思いながら木々を進むと、光が差し込む小さな開けた場所にたどり着いた。そこではミント色のマントを揺らしながら、猫族の青年が腰を下ろしていた。

ノーヤは息をのむ。

「あ、あの……!」

青年はゆっくり振り返り、眠たげな目を細めて笑った。 「……あれぇ? 洞窟のお嬢さんじゃないですか。どうしたんです?」

ノーヤは胸に手を当て、深く息を吸った。

「あのっ……助けてくれたときから、ずっとお礼が言いたくて。あの時はありがとうございました。私はノーヤ・ヴェニソンといいます! お名前を教えていただけませんか? それと……お願いがあります! わ、私と……仲間になってください!!」

森に響いたその声は、緊張と期待が混ざったまっすぐな声だった。

青年は軽く瞬きをし、柔らかく首を傾げた。

「ノーヤ・ヴェニソン……なるほど。僕はノルーニャ・キアリ。まぁ、気ままな魔法使いですよ」

名乗る声は穏やかだが、その奥の光は何かを測るようだった。

「で、仲間……ですか?」 ノルーニャは口元に笑みを浮かべる。 「僕みたいなのを誘うなんて、ずいぶん変わってますねぇ。怖くなかったんですか?」

ノーヤは胸元の禁書を握りしめながら答えた。

「わたし、この本みたいな冒険がしたかったんです。誰かと力を合わせて、知らない世界を旅するような……そういうの、すごく素敵だと思って……! それで……もしよければ、わたしと同じギルドに入って、パーティを組んでほしいんです!」」

その言葉に、ノルーニャは小さく肩をすくめた。

「ふふ……素直ですねぇ。嫌いじゃないですよ、そういうの」

そしてゆるりと立ち上がる。

「そんな顔で言われたら、断れませんね。……よろしくお願いします、ノーヤさん」

ぱぁっとノーヤの顔が明るくなる。森を抜ける風が、二人の間を穏やかにすり抜けた。


後になって思うんだけど……あのとき、ちょっとだけ勇気を出して声をかけたこと。あれがね、わたしの“とびきりイケてる冒険”の、本当の始まりだったんだなぁ……って、今でもふっと思うの。

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