本編(小説)

1.  かき氷帝国とは?

氷の大地の上に築かれた、魔法と幻想に包まれた王国──それが「かき氷帝国」です。

この国では、建物や道もすべて雪や氷でできており、人々はその中で日常を営んでいます。

通貨は「syr(シロップ)」。1syr ≒ 1円
すべての取引や納税に使われ、国のしくみを支える“あまくないお金”です。

ネコ族、クマ族、リス族、魚族……帝国には、見た目も性格もさまざまな獣人たちが共に暮らしています。

種族間には大きな争いこそ少ないものの、役割の違いや生まれつきの能力差が、知らず知らずのうちに格差や壁を生んでいるのが現実です。

かつて、帝国は「白き祝福の国」として知られていました。

氷の魔法に守られ、人々が支え合う理想の国。けれどそれは、今では遠い昔の話。

近年、皇帝の政策は急速に変わり始め、税は重く、言葉は閉ざされ、疑問を口にすることすら難しくなっています。

静かに、しかし確実に、帝国は冷え込みつづけています。

誰もが“気づいているのに、動けない”。そんな息苦しさが、この国全体を包み込んでいるのです。


2.  この世界のしくみ

この世界に生きる獣人たちは、その姿によって能力に違いがあります。

動物の姿に近い者は驚くほどの身体能力を持ち、狩りや戦闘、運搬などで活躍します。

一方、人間に近い姿の者は、魔力を扱う力に長け、癒しや研究、教育などの分野で重宝されています。

その違いは、自然な役割分担を生む一方で、見えない階層や差別の種になることもあります。

ときに、力のある者が“使われるだけ”の存在として扱われ、魔力に恵まれた者が“恐れられるだけ”になることもあるのです。

この世界の通貨「syr(シロップ)」には、魔法のような輝きはありません。

しかし、現実には魔法以上の力を持っています。

どんな家に住めるか、どんな物を買えるか、どんな人生を歩めるか──

すべてはこの小さな通貨の流れに左右されているのです。

そして、この国にはもうひとつ、見えにくい“しくみ”があります。

それは、制度を知らずに生きる者が大多数であるということ

税の仕組みを知っている人はごくわずかで、どこにどれだけ支払われ、どう使われているかを知る術もありません。

それでも人々は、制度に疑問を持つことなく、ただ“そういうものだから”と従い続けています。

この無知の中にこそ、支配者たちの意図があります。

民が知らなければ、声はあがらない。

声があがらなければ、変化も起きない。

だからこそ、ユキミアたちの旅は「お金」や「制度」の真実に向き合う冒険でもあるのです。


3. 歴史の流れ

かき氷帝国の歴史には、ふたつの大きな転換期がありました。

ひとつ目は、約800年前。

この時代は「迫害の時代」と呼ばれています。

人間に近い姿を持つ獣人──いわゆる“ニンゲン型獣人”たちは、異端視されていました。

その魔力の高さや言語能力が、かえって他の種族から恐れられ、差別や追放の対象となっていたのです。長い迫害の中で、ニンゲン型の獣人は数を減らしていきました。

その後、約300年前に起きたのが「神聖視の時代」です。

わずかに生き残った人間に近い姿の獣人たちは、“特別な力を持つ者”として再評価されるようになりました。知識と魔法を扱えるその存在は、次第に尊敬や信仰の対象に変わっていったのです。

──そして現代。

かつてのような露骨な差別は少なくなったものの、ニンゲン型の獣人は今も非常に希少な存在です。

その姿ゆえに周囲から浮きやすく、同時に、期待や偏見を向けられることもあります。

増税、沈黙、監視、格差。

帝国全体が静かに冷えていくような時代の中で、ユキミアたちは小さな一歩を踏み出します。

“知ること”は、見えない支配を溶かす第一歩。

それは、やがてこの氷の国に春を呼ぶ“本当の魔法”になるかもしれません。

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