第3章 “影”と呼ばれる貧困街第3章 第5節 新たな旅へ 魔物を仕留めたあと、ギルドからの報奨金と、あの麻袋に詰まっていた大量の金貨を合わせると、およそ五百万syrになった。帝都ですら、庶民が一年必死に働いてようやく届く額だ。ましてここマリネル、とくに《影》では、一年働いても二百万syrに満たな...2025.12.31第3章 “影”と呼ばれる貧困街
第3章 “影”と呼ばれる貧困街第3章 第4節 弟の手紙 夕暮れが迫る港町《マリネル》は、昼の喧騒を名残に残しながら、海と空の境がゆっくりと茜へ溶けていく時間帯に入っていた。市場では片づけの声があがり、潮風に揺れる布が夕光を受けて揺らめく。穏やかな気配が街を包みつつあった、そのときだった。 ...2025.12.31第3章 “影”と呼ばれる貧困街
第3章 “影”と呼ばれる貧困街第3章 第3節 増税の知らせ 週の終わり、港町《マリネル》に重い知らせが落ちた。新たな増税である。漁業税と都市保全税が同時に引き上げられ、漁師も商人も、表通りの観光客相手に商う者でさえ顔色を変えた。今回ばかりは「そのうち下がるさ」という軽口すら出ない。街の空気は、潮風...2025.12.31第3章 “影”と呼ばれる貧困街
第3章 “影”と呼ばれる貧困街第3章 第2節 幼馴染 貧困街《影》に建つ古びた孤児院は、潮風で軋む木の扉と雨漏りする屋根を抱えながらも、毎朝子どもたちの笑い声で満ちていた。粗末な食堂では小さな椅子がぎしぎしと鳴り、洗濯縄には色あせた服が揺れる。裕福とは言えないが、互いを助け合う温もりだけは絶...2025.12.31第3章 “影”と呼ばれる貧困街
第3章 “影”と呼ばれる貧困街第3章 第1節 “影”と呼ばれる貧困街 南方の港町《マリネル》は、一年の半分が夏といわれるほど温暖で、通りには明るい声と潮風が満ちていた。表通りには観光客向けの屋台が並び、果実酒や氷菓の香りが漂い、磨かれた石畳は陽光を受けて水面のように光っている。 だが、その賑わいを一歩外...2025.12.31第3章 “影”と呼ばれる貧困街
第2章 ヴェニソン商会の令嬢第2章 第6節 仲間への誘い ルストでの初めての依頼こそ散々だったものの、その後のノーヤは驚くほど堅実に成長していた。洞窟での出来事を反省したのか、彼女は簡単な雑用からはじめ、次第に地図作成、素材集め、届け物といった軽い依頼へと領域を広げていった。 ヴェニソン家で培わ...2025.12.31第2章 ヴェニソン商会の令嬢
第2章 ヴェニソン商会の令嬢第2章・第5節 ノルーニャとの出会い 「……誰だ、お前は?」 ザットが低く唸るように問いかけた。泉の青白い光が、彼の目の奥の焦りを浮かび上がらせる。 猫族の青年は、まるで散歩の途中で立ち寄ったかのように肩をすくめた。 「通りすがりの魔法使いです。」 穏やかな声なのに、空気...2025.12.31第2章 ヴェニソン商会の令嬢
第2章 ヴェニソン商会の令嬢第2章 第4節 初めての依頼 「さてさてギルドの登録も終わったし……ご飯にしよっと!」 胸の奥がふわっと軽くなる。昨日までの窮屈な毎日が嘘のように、ルストの朝は自由そのものだった。 早朝のナイフ庵には、すでに冒険者たちが集まっており、注文の声や皿の触れ合う音が活気を生...2025.12.31第2章 ヴェニソン商会の令嬢
第2章 ヴェニソン商会の令嬢第2章 第3節 新しい街へ 夜明け前の薄明かりの中、ノーヤはフェリアから東へ伸びる街道を歩き続けていた。背負った小さなカバンは軽いはずなのに、歩くたびに肩へ静かに重みがのしかかる。それは荷物の重さではなく、十五年過ごした屋敷を離れたばかりの心の揺れだった。 それでも...2025.12.31第2章 ヴェニソン商会の令嬢
第2章 ヴェニソン商会の令嬢第2章 第2節 わたしの人生 一年が過ぎ、フェリアには例年と変わらぬ穏やかな春が訪れていた。花の香りは相変わらず風に乗って漂ってくる。それでも、ノーヤの心だけは静かに形を変えていた。ローレンから贈られた禁書は、机の上で常に開かれ、何度も読み返されたせいで角が丸くなってい...2025.12.31第2章 ヴェニソン商会の令嬢