J-REITはNAV0.9倍未満で買えば有利?
23年分・268時点を検証
J-REIT市場の平均NAV倍率と、その後1・3・6・12・24か月の成績を23年分の月次データで検証。平均・中央値・勝率だけでなく、長期金利と利回り差、2026年の現在地まで分析します。

「0.84倍だけ見れば安い。でも今の金利条件は、過去と同じじゃないんだよな。」
先に結論
NAV0.9倍未満は、その後12か月の成績が良好でした。ただし統計的に明確な差とは言えません。現在のNAV0.84倍は利回り差が2.40ポイントしかなく、過去の低NAVサンプルにはなかった条件です。
NAV倍率と、今回扱う指数の仕組み
NAV倍率は、投資口価格を1口当たりNAV(純資産価値)で割った指標です。1倍を下回れば、価格が保有不動産の純資産価値を下回っている計算になります。
ARESの1口当たりNAVはQUICKの数値を使用します。概念上は、鑑定評価額と帳簿価額の差を純資産へ加え、発行済投資口数で割る形です。市場平均は時価総額加重で計算されます。
0.84倍なら価格がNAVを16%下回る計算です。ただしNAVは建物を今すぐ売った場合の手取り額ではありません。鑑定評価や決算情報には時間差があり、売却費用、税、資金調達条件、スポンサーの質までは一つの倍率で表せません。
成績の測定には東証REIT指数(配当込み)を使いました。個別銘柄を選ぶ分析ではなく、J-REIT市場全体を買った場合の検証です。
調査方法――条件は結果を見る前に固定
月末のNAV倍率を確認し、翌月末に買う設定です。同じ月末の指数値を過去の判断へ使わないことで、ルックアヘッド・バイアスを避けました。
| 項目 | 設定 |
|---|---|
| 調査期間 | ARES月次:2001年9月〜2026年6月。12か月分析は2003年2月〜2025年5月シグナル |
| 対象 | 東証REIT指数全体。個別銘柄の選別なし |
| サンプル数 | 月次280。1か月279、3か月277、6か月274、12か月268、24か月256 |
| 売買タイミング | 月末tでNAV確認、翌月末t+1で買い、所定期間後の月末で売り |
| 保有期間 | 1・3・6・12・24か月 |
| 分配金・調整 | 税引前の配当込み指数。増資・分割などは指数側で調整 |
| コスト | 手数料、税、ETF信託報酬、スプレッド、スリッページを含まない |
| 比較指数 | NASDAQ Japan Total Return Index。日次値を月末値へ変換 |
| 条件区分 | NAVは0.8・0.9・1.0・1.1倍。利回り差は3・4ポイントで固定 |
| 主な制約 | 12・24か月は観測が重複。NAVは鑑定・決算情報の遅行性を含む |
集計結果――0.9倍未満は良好、しかし一直線ではない
最も素直な結果は0.8〜0.9倍未満でした。平均14.4%と中央値14.5%がほぼ一致し、勝率は76.5%です。
0.9〜1.0倍未満は平均9.1%でも中央値が0.2%、勝率51.4%でした。少数の大幅反発が平均を押し上げています。単なる1倍割れではなく、0.9倍を明確に下回るかで分布が変わりました。
ただし完全な右肩下がりではありません。1.0〜1.1倍未満の平均は10.2%で、0.9〜1.0倍未満を上回ります。価格は割安度だけでなく、景気、賃料成長、資金調達環境にも動かされます。
| NAV倍率 | n | 平均 | 中央値 | 勝率 | 第1四分位 | 第3四分位 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 0.8倍未満 | 20 | 16.5% | 15.3% | 85.0% | 5.8% | 27.7% |
| 0.8〜0.9倍未満 | 34 | 14.4% | 14.5% | 76.5% | 4.5% | 23.3% |
| 0.9〜1.0倍未満 | 37 | 9.1% | 0.2% | 51.4% | −4.1% | 34.2% |
| 1.0〜1.1倍未満 | 46 | 10.2% | 10.8% | 65.2% | −1.5% | 22.4% |
| 1.1倍以上 | 131 | 6.6% | 6.1% | 62.6% | −3.7% | 23.4% |

保有期間別――短期より12〜24か月で差が広がった
低NAVの優位は1か月では小さく、6か月以降に広がりました。短期反発狙いより、中期保有に近い傾向です。
| NAV倍率 | 1か月 | 3か月 | 6か月 | 12か月 | 24か月 |
|---|---|---|---|---|---|
| 0.8倍未満 | 2.1%(n=20) | 4.1%(n=20) | 8.0%(n=20) | 16.5%(n=20) | 27.5%(n=20) |
| 0.8〜0.9倍未満 | −0.1%(n=38) | 2.5%(n=36) | 7.0%(n=36) | 14.4%(n=34) | 31.4%(n=22) |
| 0.9〜1.0倍未満 | 0.2%(n=44) | 0.1%(n=44) | 1.6%(n=41) | 9.1%(n=37) | 27.1%(n=37) |
| 1.0〜1.1倍未満 | 1.1%(n=46) | 4.1%(n=46) | 6.0%(n=46) | 10.2%(n=46) | 16.4%(n=46) |
| 1.1倍以上 | 0.7%(n=131) | 1.8%(n=131) | 3.7%(n=131) | 6.6%(n=131) | 11.4%(n=131) |

リスクの分布――勝率が高くても途中の下落はある
0.8〜0.9倍未満の実際の勝率は76.5%でした。一方で、最悪の保有中MDDは−40.0%です。
0.8〜0.9倍未満は平均利益21.0%、平均損失−7.2%でした。理論上の損益分岐勝率は25.5%です。ただし割安になった直後にさらに売られる局面は残りました。
0.8倍未満では12か月最終損益の最大下落が−4.1%でも、MDD中央値は−15.1%でした。最終的に戻ったケースでも、保有途中には二桁下落を経験しています。
| NAV倍率 | 標準偏差 | 最大下落 | 最大上昇 | MDD中央値 | 最悪MDD | 損益分岐勝率 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 0.8倍未満 | 15.0% | −4.1% | 53.6% | −15.1% | −15.7% | 13.2% |
| 0.8〜0.9倍未満 | 16.9% | −20.6% | 52.5% | −5.7% | −40.0% | 25.5% |
| 0.9〜1.0倍未満 | 30.4% | −47.3% | 74.3% | −8.2% | −47.3% | 31.3% |
| 1.0〜1.1倍未満 | 14.7% | −19.6% | 44.5% | −5.5% | −28.4% | 21.7% |
| 1.1倍以上 | 22.1% | −53.9% | 58.2% | −6.3% | −53.9% | 43.7% |
国内株式ベンチマークとの比較
絶対リターンが良くても、日本株全体より有利だったとは限りません。
0.8倍未満は国内株式へ平均+4.6ポイント、上回った割合70.0%でした。一方0.8〜0.9倍未満は平均+2.2ポイントでも、上回った割合は50.0%です。
絶対リターン14.4%の一部は日本株全体が上昇した効果でした。低NAVなら必ず国内株式より有利とは言えません。
| NAV倍率 | n | J-REIT平均 | 国内株平均 | 平均超過 | 上回った割合 |
|---|---|---|---|---|---|
| 0.8倍未満 | 20 | 16.5% | 11.9% | +4.6pt | 70.0% |
| 0.8〜0.9倍未満 | 34 | 14.4% | 12.1% | +2.2pt | 50.0% |
| 0.9〜1.0倍未満 | 37 | 9.1% | 8.0% | +1.2pt | 48.6% |
| 1.0〜1.1倍未満 | 46 | 10.2% | 5.3% | +4.9pt | 63.0% |
| 1.1倍以上 | 131 | 6.6% | 7.6% | −1.0pt | 49.6% |
最重要の条件別比較――NAVだけでなく利回り差を見る
利回り差は、J-REITの平均予想分配金利回りから10年国債利回りを引いた値です。低NAVでも、国債に対する収益の厚みで結果が変わりました。
利回り差4ポイント以上では12か月平均18.8%、中央値18.8%、勝率83.3%でした。3〜4ポイント未満では平均7.8%、中央値8.8%、勝率72.2%まで低下します。
2026年6月末はNAV0.84倍でも、予想分配金利回り5.09%から10年国債利回り2.69%を引いた利回り差は2.40ポイントです。過去の低NAV54時点はすべて3ポイント以上でした。
| 利回り差 | n | 平均 | 中央値 | 勝率 | 解釈 |
|---|---|---|---|---|---|
| 3ポイント未満 | 0 | 算出不能 | 算出不能 | 算出不能 | 2026年6月末はここ |
| 3〜4ポイント未満 | 18 | 7.8% | 8.8% | 72.2% | 低NAVでもリターンは鈍化 |
| 4ポイント以上 | 36 | 18.8% | 18.8% | 83.3% | 過去は最も良好 |

金利上昇そのものは、低NAVの成績を消さなかった
直前3か月の10年国債利回りが0.10ポイント超上がった局面でも、その後12か月の平均は11.0%、勝率81.3%でした。
単に『金利が上がっているからJ-REITは買えない』とも言えません。ただし、これは過去の金利水準の中での比較です。
2026年のように10年金利が2%台後半まで上がり、利回り差が2.40ポイントまで縮んだ局面とは区別する必要があります。
| 10年金利 | n | 平均 | 中央値 | 勝率 | 最小 | 最大 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 低下(−0.10pt超) | 18 | 12.9% | 14.3% | 77.8% | −13.3% | 52.5% |
| 横ばい | 20 | 20.5% | 23.2% | 80.0% | −13.9% | 53.6% |
| 上昇(+0.10pt超) | 16 | 11.0% | 13.4% | 81.3% | −20.6% | 27.9% |
特に興味深かった成功例・失敗例
低NAVは下値保証ではなく、高NAVも即下落の合図ではありません。例外を含めて見ると、倍率単独の弱点が分かります。
2008年6月|安くても早すぎた
NAV0.88倍でしたが、翌月末買いから12か月は−20.6%。世界金融危機の途中ではディスカウントがさらに拡大しました。
2011年末〜2012年|割安が機能
2011年12月末はNAV0.79倍。翌月末から12か月は+41%前後となり、2012年には50%超の例も複数ありました。
2006年4月|高くても上昇
NAV1.45倍でも12か月は+58.2%。一方2007年9月末の1.35倍からは−53.9%。期待反転時の損失は大きくなりました。
2023〜2025年|直近の低NAV
低NAV18時点の12か月平均は12.8%、中央値14.0%、勝率83.3%。ただし2026年の高金利局面はまだ観測できません。
統計的には『有望な傾向』止まり
NAV0.9倍未満と1.1倍以上の12か月平均差は+8.6ポイントでした。しかし『差がある』とは統計的に断定できません。
12か月リターンの重複を考慮したHAC標準誤差は6.3ポイントです。95%信頼区間は−3.8〜+21.0ポイント、p値は0.172でした。ゼロ差を棄却できません。
NAV倍率を連続値として回帰しても、NAVが1.0上がると12か月リターンが12.5ポイント低くなる方向でしたが、p=0.339で有意ではありません。
観測数は268でも、12か月リターンが11か月分重複しています。低NAVも限られた危機・回復局面へ集中しているため、268回の独立した投資とは扱えません。
結果から考えられる理由
ここからはデータと整合する仮説です。因果関係が確認されたわけではありません。
需給
機関投資家、投資信託、ETFなどがリスク回避で一斉に売るとNAVとの乖離が広がります。資金が戻る局面では反発も大きくなりやすいと考えられます。
分配金
価格下落で分配金利回りが上がり、保有中のインカムが下支えします。今回の成績は分配金込みです。
金利との相対価値
同じNAV0.85倍でも、10年国債が0.5%の時と2.7%の時では要求利回りが違います。利回り差が厚い局面ほど成績が良い関係が見られました。
NAVの遅行性
不動産鑑定や決算は市場価格ほど速く動きません。金利上昇時は投資口価格が将来の鑑定価格低下を先に織り込むことがあります。
実際に利用する場合の条件
NAV倍率は一つ目のフィルターとして使い、利回り差、分散、保有期間を組み合わせます。
検討しやすい条件
平均NAVが0.9倍を明確に下回り、利回り差が少なくとも3ポイント。過去成績がより良かった4ポイント以上なら相対的な余裕があります。
分散と時間分散
一銘柄へ集中せず、指数連動ETFや複数REITへ分散。一括でなく数回に分け、追加下落を前提に資金配分します。
想定する期間
12〜24か月を想定します。1か月ではNAV帯による差が小さく、短期反発だけを狙う根拠は弱い結果でした。
避けたい使い方
NAV0.9倍未満だけを見て、金利、利回り差、分配金予想を確認しないこと。市場平均を財務問題のある個別REITへ当てはめないこと。
まとめ――NAV0.9倍未満は一次フィルター
過去データでは、平均NAV倍率が0.9倍を下回った後の12か月成績は良好でした。短期より12〜24か月で差が広がった点も特徴です。
0.8〜0.9倍未満は平均14.4%、中央値14.5%、勝率76.5%でした。一方で統計的な差は確認できず、国内株式を上回った割合も50.0%です。
現在はNAV0.84倍でも利回り差が2.40ポイントしかありません。過去に12か月後まで追跡できる低NAV局面とは条件が違います。
NAV0.9倍未満は有望な一次フィルターですが、単独の買い条件には弱い。NAV倍率と利回り差を組み合わせ、分散・時間分散・中期保有を前提に使うのが今回のデータに忠実な結論です。
数字と一緒に確認したいこと
- 1
金利上昇、借換コスト増、LTV上昇、増資による希薄化、物件価格下落、賃料・稼働率悪化、災害、スポンサー信用、流動性、分配金減額のリスクがあります。
- 2
指数成績は手数料、ETF信託報酬、税金、スプレッドを含みません。月末指数のため、翌営業日や日中の約定価格とも一致しません。
- 3
268時点は268件の独立した投資ではありません。隣接する12か月シグナルは、ほぼ同じ相場期間を共有します。
- 4
ホテル、オフィス、物流、住宅など用途別の違いは今回の分析対象外です。
集計・計算について
ARES J-REIT Databookの月次NAV倍率、東証REIT指数(配当込み)、予想分配金利回りを使用。財務省の10年国債利回りは月末最終値へ変換しました。平均差の検定は12か月の重複を考慮し、Newey–West型HAC標準誤差(11ラグ)を使用しています。
出典・確認先
- ARES:J-REIT Databook(2026年6月)
- ARES J-REIT View:統計データ案内
- JPX:東証REIT指数ファクトシート
- 財務省:国債金利情報/過去の金利情報
- FRED:NASDAQ Japan Total Return Index
- 東京証券取引所:税引後配当込み東証REIT指数の算出
数値は記載した基準日時点です。掲載内容は情報提供を目的とし、特定商品の購入・売却を勧めるものではありません。過去の実績や試算は将来の成果を保証しません。