J-REITは権利落ち後に買うと有利?
1,064件で価格回復までの日数を検証
2016〜2025年のJ-REIT権利落ち1,064件を集計。権利落ち日終値で購入した後の1・5・20・60・120営業日リターンと、権利付き最終日の価格を何日で回復したかを検証します。

「半分は20日以内に戻った。でも短期ほど勝ちやすい、って話じゃなかったよ。」
先に結論
権利落ち日終値から20営業日の平均は+0.18%で、ゼロとの差は明確ではありませんでした。60日は平均+1.16%、中央値+1.45%、勝率57.0%。権利付き最終日の終値を回復した割合は20日で54.6%、60日で73.8%です。短期の確実なサヤ取りではなく、数か月単位で需給回復を待つ傾向でした。
権利落ちで、なぜ価格が下がるのか
分配金を受け取る権利がなくなる売買日を権利落ち日と呼びます。理論上は、権利の価値である分配金相当額だけ価格が下がります。
東証の説明では、配当落日は権利確定日の1営業日前から始まり、その日に買っても今回の配当・分配金を受け取れません。J-REITは年2回決算の銘柄が多く、権利落ちは同じ決算月の銘柄へ集中します。
例えば権利付き最終日の終値が10万円、分配金が2,500円なら、他の条件が同じ場合の理論価格は9万7,500円です。ただし実際の価格には市場全体、金利、物件売却、業績予想、需給が同時に反映されます。
権利落ち後に買えば分配金を受け取れない代わりに、分配金相当の値下がり後から投資できます。今回は、その価格がどの程度戻ったかを大量のイベントで確かめました。
調査方法――権利落ち日の終値で買う
イベント日と分配金額を価格データから抽出し、権利落ち日の終値を購入価格に固定しました。将来の安値を見て買う日は変えていません。
終値から終値への比較なので、寄付きの窓開けを売買できた前提にはしていません。権利落ち日の引けで購入し、所定営業日の引けで売却する単純な設定です。
120営業日は次の決算期の権利落ちに近づく場合があります。次の分配金を加算していないため、長期の結果は税引前トータルリターンより低く表示される可能性があります。
| 項目 | 設定 |
|---|---|
| 調査期間 | 2016年1月〜2025年12月の権利落ち |
| 対象 | 2026年時点の上場J-REIT57銘柄に、取得可能だった旧銘柄2銘柄を追加 |
| サンプル数 | 1・5日1,064件、20・60・120日1,063件 |
| 除外 | Yahoo Financeで履歴を取得できない旧・合併銘柄22コード。現存57銘柄は全て残した |
| 購入価格 | 権利落ち日の分割調整後終値 |
| 保有期間 | 翌営業日、5・20・60・120営業日 |
| 分配金 | 購入後の分配金は含まない価格リターン。権利落ち日の分配金額は機械的下落の比較だけに使用 |
| 分割調整 | 投資口分割比率で過去価格を調整。分割の市場反映日と法的効力日のずれも価格断層から補正 |
| コスト | 手数料、税、スプレッド、スリッページを含まない |
| 比較対象 | NEXT FUNDS 東証REIT指数連動型上場投信(1343)の同期間価格リターン |
| 価格回復 | 権利落ち後の終値が、直前の権利付き最終日終値以上になった最初の日 |
| 主な制約 | 同一銘柄・同一相場の観測が重複。旧銘柄欠損による生存者偏りを完全には除けない |
権利落ち日の下落は、ほぼ分配金相当だった
権利落ち日の平均騰落率は−1.94%、直前分配金の平均利回りは2.23%でした。分配金を足し戻した差は平均+0.30%です。
平均では、権利落ち日の値下がりは分配金利回りより0.30ポイント小さくなりました。分配金を取らずに落ち後から買う投資家が一定の下支えになった可能性はあります。
ただし個別イベントの幅は大きく、分配金以上に下げた例もあります。当日の市場材料を無視して『分配金分だけ下がる』と決めることはできません。
| 指標 | 平均 | 中央値 | 第1四分位 | 第3四分位 | 最小 | 最大 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 権利落ち日騰落率 | −1.94% | −1.93% | −2.66% | −1.14% | −13.25% | +8.02% |
| 1回分の分配金利回り | 2.23% | 2.15% | 1.85% | 2.55% | 0.03% | 8.11% |
| 分配金足し戻し後の差 | +0.30% | +0.30% | −0.37% | +1.00% | −6.24% | +10.53% |
平均的な価格経路――10日目までは弱かった
権利落ち日終値を0%とすると、平均は10営業日目に−0.78%まで下がり、20日目に+0.18%、60日目に+1.16%となりました。
1〜5日で反発するというより、権利落ち後もしばらく価格が重い形です。同じ決算月のREITがまとめて指数・ファンドの売買を受けることや、権利取り資金が別の決算月へ移ることが関係した可能性があります。
中央値は15日目に0%へ戻り、60日目に+1.45%でした。平均と中央値の方向が近いため、60日のプラスが少数の大幅上昇だけで作られたわけではありません。

保有期間別――短期の優位はほぼなかった
1日と5日は平均・中央値ともマイナスでした。20日はわずかにプラス、60日以降で結果が改善します。
20日平均+0.18%はt検定でp=0.305となり、平均がゼロより高いとは判断できません。順位を使う検定では中央値のプラスが確認されましたが、利益幅は小さい水準です。
60日平均はp<0.001、比較ETFに対する平均超過+1.24ポイントもp<0.001でした。ただしイベントが重複し、同じ市場局面の影響を繰り返し数えているため、独立標本としてのp値より慎重に解釈します。
| 保有 | n | 平均 | 中央値 | 勝率 | 第1四分位 | 第3四分位 | 比較ETF | 平均超過 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 翌営業日 | 1,064 | −0.19% | −0.15% | 41.5% | −0.92% | +0.54% | −0.15% | −0.04pt |
| 5営業日 | 1,064 | −0.26% | −0.30% | 43.0% | −1.80% | +1.15% | −0.21% | −0.05pt |
| 20営業日 | 1,063 | +0.18% | +0.47% | 53.9% | −2.30% | +3.23% | −0.18% | +0.37pt |
| 60営業日 | 1,063 | +1.16% | +1.45% | 57.0% | −3.58% | +6.27% | −0.07% | +1.24pt |
| 120営業日 | 1,063 | +2.34% | +1.52% | 55.6% | −5.38% | +9.96% | −0.02% | +2.36pt |

元の価格へ戻った割合――20日で54.6%、60日で73.8%
権利付き最終日の終値を、分配金を受け取らず価格だけで回復したかを調べました。
回復できた865件に限ると、回復までの日数の中央値は12営業日、平均は21.7営業日でした。早く戻る事例が多い一方、100日近くかかる例もあります。
120日以内に戻らなかった199件を除いて平均日数を計算しているため、『平均22日で必ず戻る』という意味ではありません。未回復を含めた実務的な数字は、120日回復率81.3%です。
| 期限 | n | 回復率 | 未回復率 |
|---|---|---|---|
| 5営業日以内 | 1,064 | 29.1% | 70.9% |
| 20営業日以内 | 1,064 | 54.6% | 45.4% |
| 60営業日以内 | 1,064 | 73.8% | 26.2% |
| 120営業日以内 | 1,064 | 81.3% | 18.7% |

高分配金ほど有利?――最上位群の回復率は低かった
1回分の分配金利回りを四分位に分けると、中上位のQ3が60日平均+2.78%で最高でした。最上位Q4は+2.06%へ低下します。
高利回り群ほど権利落ち日の下落は大きく、機械的な分配金落ちと整合します。20・60日リターンはQ3とQ4が良好でしたが、Q4の60日回復率は70.3%で4群中最低です。
極端に高い分配金には物件売却益、一時的な利益超過分配、将来減配への懸念が含まれる場合があります。利回りが高いほど安全に戻るわけではありません。
| 区分 | n | 利回り中央値 | 権利落ち当日 | 20日平均 | 60日平均 | 60日回復率 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| Q1・低い | 266 | 1.66% | −1.33% | −0.61% | −0.78% | 77.4% |
| Q2 | 265 | 2.00% | −1.66% | −0.31% | +0.58% | 72.9% |
| Q3 | 266 | 2.35% | −2.04% | +0.71% | +2.78% | 74.4% |
| Q4・高い | 266 | 2.82% | −2.70% | +0.94% | +2.06% | 70.3% |
年別比較――2020年と2025年では逆の結果
20日平均は2020年−4.11%、2025年+1.74%。権利落ち効果より市場環境が強く出た年があります。
2020年には新型コロナの急落が重なりました。逆に2025年はJ-REIT市場の回復が権利落ち後リターンを押し上げています。イベントだけで相場方向を無効化できません。
毎年同じ結果ではないため、直近1年の好成績を根拠にルールを強めるのは危険です。少なくとも金利と東証REIT指数の中期トレンドを併せて見ます。
| 年 | n | 20日 | 60日 |
|---|---|---|---|
| 2016 | 90 | +1.20% | +1.16% |
| 2017 | 97 | +0.72% | +0.98% |
| 2018 | 103 | +0.44% | +2.93% |
| 2019 | 107 | +1.39% | +1.02% |
| 2020 | 111 | −4.11% | −0.63% |
| 2021 | 111 | −0.20% | +0.33% |
| 2022 | 112 | +0.53% | +0.28% |
| 2023 | 111 | −0.37% | +0.22% |
| 2024 | 112 | +0.83% | +0.92% |
| 2025 | 109 | +1.74% | +4.59% |
平均の裏側――120日でも最悪−55.0%
60日リターンの標準偏差は9.23%、最小−63.84%。120日の最小は−54.96%で、平均+2.34%からは想像しにくい損失があります。
120日リターンの第1四分位は−5.38%、第3四分位は+9.96%です。中央値+1.52%でも、4分の1は−5%を超える損失でした。
保有中最大ドローダウンの平均は−11.87%、中央値−9.29%、最悪−70.02%です。最終的に回復したイベントでも、途中の下落に耐えられるとは限りません。
| 期間 | 標準偏差 | 最大上昇 | 最大下落 | MDD中央値 | 最悪MDD | 損益分岐勝率 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 20日 | 5.84% | +29.00% | −41.92% | ― | ― | 51.9% |
| 60日 | 9.23% | +33.62% | −63.84% | ― | ― | 48.3% |
| 120日 | 12.98% | +48.00% | −54.96% | −9.29% | −70.02% | 43.7% |
特に興味深かった成功例・失敗例
同じ権利落ちでも、その後の市場ショックや用途別の回復で結果は大きく変わりました。
平和不動産リート|2020年11月
権利落ち日終値から60日で+33.6%。ワクチン期待後のREIT回復局面と重なりました。
インヴィンシブル|2020年12月
60日で+30.4%。ホテルREITの戻りが大きかった一方、収益の変動性も高い銘柄です。
ジャパン・ホテル・リート|2019年12月
60日で−63.8%。2020年3月のコロナ急落と重なり、権利落ち後の平均回帰が機能しませんでした。
いちごホテルリート|2020年1月
60日で−53.8%。高分配金や権利落ち後の値ごろ感より、ホテル需要消失の影響が上回りました。
結果から考えられる理由
ここからはデータと整合する仮説です。関係が見られたことと、原因であることは区別します。
権利取り資金の移動
分配金を目的に保有していた資金が権利落ち後に別銘柄へ移ると、数日から数週間は売りが残ります。
機械的な価格調整
平均では分配金利回り2.23%に対し当日下落1.94%。大部分は価値移転の調整で、割安化とは限りません。
利回り投資家の再参入
価格下落で次回予想分配金利回りが上がると、インカム目的の買いが戻りやすくなります。
市場・金利要因
60〜120日のリターンはイベント需給より、長期金利、東証REIT指数、用途別業績の影響が大きくなります。
実際に利用する場合の条件
権利落ち日を自動的な買い日ではなく、価格と分配金予想を再確認する日として使います。
短期で急がない
1日平均−0.19%、5日平均−0.26%。寄付きや翌日に反発を決めつけず、少なくとも数日の出来高と値動きを確認します。
20〜60日を想定
20日で回復率54.6%、60日で73.8%。短期サヤ取りより、数か月待てる資金で検討します。
分配金の質を見る
物件売却益や一時的分配を除いた巡航分配金、次期予想、LTV、借入金利を確認します。
地合いで見送る
東証REIT指数が下落トレンド、長期金利が急上昇、用途固有の需要悪化があるときは権利落ちだけで買いません。
まとめ――回復しやすいが、短期の確実性はない
権利落ち後20日で54.6%、60日で73.8%が権利付き最終日の終値を回復しました。一方、5日以内は29.1%です。
権利落ち日終値から20日の平均は+0.18%で統計的に明確ではなく、5日までは平均マイナスでした。『落ち日に買って数日で戻す』手法としては弱い結果です。
60日は平均+1.16%、中央値+1.45%、勝率57.0%。中期では改善しましたが、最大下落−63.8%、最悪MDD−70.0%が示す通り、市場ショックには無力です。
権利落ちは買い場そのものではなく、次期分配金と価格のバランスを見直す入口として使うのが現実的です。この傾向が将来も続く保証はありません。
数字と一緒に確認したいこと
- 1
権利落ち後も投資口価格が下がり続け、権利付き最終日の価格へ戻らない場合があります。
- 2
高い分配金に物件売却益や利益超過分配が含まれ、次期に減配することがあります。
- 3
ホテル、商業、オフィスなど用途固有の需要悪化は、権利落ち需給より大きな影響を与えます。
- 4
金利上昇で借入費用と要求利回りが上がると、価格回復が遅れることがあります。
- 5
出来高の少ない銘柄では終値で売買できず、スプレッドとスリッページが期待値を消します。
- 6
分配金を含まない価格リターンであり、120日では次回権利落ちをまたぐ場合があります。
- 7
合併・上場廃止となった旧銘柄の多くは価格履歴を取得できず、生存者バイアスを完全には排除できません。
- 8
イベントが重複しているため、統計的有意性を独立した1,064回の試行として解釈できません。
集計・計算について
Yahoo Financeの分配イベントと日次価格を用い、2016〜2025年のJ-REIT権利落ちを抽出しました。2026年時点の現存57銘柄は全て含み、取得できた旧銘柄2銘柄も追加しています。旧・合併銘柄22コードは日次履歴を取得できず除外しました。権利落ち日の分割調整後終値を購入価格とし、1・5・20・60・120営業日後の終値を比較。分配金、税、手数料、スプレッドは含めません。価格回復は権利落ち後の終値が直前の権利付き最終日終値以上となった最初の日です。比較指数は1343の同期間価格リターン。複数イベントの保有期間が重なるため、平均値と検定結果は探索的な傾向として扱います。
出典・確認先
- 日本取引所グループ|配当落・権利落等情報
- 日本取引所グループ|用語集・配当落
- 日本取引所グループ|新株落・権利落等一覧(統計月報)
- Yahoo Finance|J-REIT各銘柄・1343の日次価格と分配イベント
- JAPAN-REIT.COM|分配金・決算期・J-REIT銘柄一覧
- 不動産証券化協会|ARESマンスリーレポート
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